2008/7/31 木曜日

斎藤報恩会博物館

Filed under: だてな仙台検定番外編 — dandolino @ 23:40:04

今、仙台自然史博物館でナスカの地上絵展をやっていますが、ここはかつては斎藤報恩会博物館という名称でした。中はいつも薄暗くて、子供にとっては”オシッコをちびりそう”になる不気味な場所でした。それでも時々行きたくなるのは「未知への憧れ」があったからだと思います。ところで皆さんは斎藤報恩会という組織をご存知ですか?東北有数の資産家であった宮城県桃生郡前谷地村の斎藤善右衛門さんが、大正10年(1921)に設立された財団法人です。斎藤報恩会は東北大学の学術研究に多大な貢献をしただけでなく、財団法人の先駆けとして後に続く著名財団の設立にも大きな影響を与えています。財団設立の経緯と詳細は東北大学百年史編纂室ニュース(第6号 2000.8.1)に紹介されています。東北大学の創立100年記念事業も一段落しており、サイトのデータも古いのでいずれリンク切れになるかもしれません。文末に全文をそのまま引用させていただきました。

さて、実は今日は斎藤報恩会そのものを紹介するのが目的ではありませんでした。7月27日(日)の河北新報の「石巻斎藤氏庭園 土蔵また損壊」という記事にお気づきになった方はいらっしゃいますか。そうです、これが斎藤善右衛門さんのお屋敷です。2003年の宮城県連続地震で被災し、今年立て続けに起こっている地震で致命的な被害を受けてしまったそうです。郷土のいや日本の偉人の大切な史跡を是非残さないといけないと思います。私たちに何ができるんでしょうか。昨日の「風の時」といい、「斎藤氏庭園」といい、何もできない自分に歯がゆさを感じています。

斎藤善右衛門翁と東北大学

 大正10年(1921)10月、東北有数の資産家である宮城県桃生郡前谷地村の斎藤善右衛門翁(1854~1925)は300万円を出捐し、財団法人斎藤報恩会を設立した。その事業目的は出資金の果実を東北地方の学術研究への助成金として交付することであった。

翁は神仏の信仰に篤く「財産は神仏よりの供託物にして私有物に非ず」との堅い信念を持っていたので、財産を国のために還元する方法について、東北帝国大学の小川正孝総長(1865~1930〔第4代:任期1919~1928〕)や井上仁吉総長(1868~1947〔第5代:任期1928~1931〕)に度々相談した結果、学術研究の補助金交付を事業目的とする財団法人の設置を計画したのである。

翁は既に明治34年(1901)8月に育英貸費事業の規則を仙台の養賢義会等にならって制定し、広く東北各県より志望者を募り、評議員の選考により貸費を決定していた。財団法人斎藤報恩会の事業開始までに、総計246名に対し9万3千200円余の育英資金を提供し、俊秀の養成に尽力していたのである。

また、明治40年(1907)6月東北帝国大学の設立が決定したとき、仙台を東北の真の学都たらしめるには、当時の県立図書館の内容では到底及ばないと見て、宮城県立図書館新築全経費5万円、図書購入費1万5千円のほか、向後50年間年額3千円の図書購入費の寄付を申し入れたことは、斎藤翁が斎藤報恩会設立以前から東北の教育と学問について力を注いでいたことを意味し、宮城県図書館が全国的図書館運動のセンター館として重きをなしたことと無縁ではない。

大正12年(1923)当時、東北地方における学術研究主体は東北帝国大学以外では、わずかに高等学校専門学校の教官を算える程で、斎藤報恩会の研究補助金の大部分は東北帝大がその恩恵に浴したのであり、本学として誠に幸いなことであった。

財団法人斎藤報恩会の設立については、文部、大蔵、内務をはじめ全省庁の許認可が必要であり、翁が連日役所に日参した結果、ようやく実現したのであった。認可が難しかったのは、斎藤報恩会の事業目的が学術研究助成金の交付であること、また研究部門をもつ財団法人はわが国では当時前代未聞であったからだという。

財団法人斎藤報恩会の設置が認可された以後、この種の財団の認可が早まったとされている。斎藤報恩会に次いで認可された三井報恩会はその名称で、服部報公会はその事業内容で斎藤報恩会をモデルにしたといわれている。

財団への出捐金300万円の果実は、当時金利が7分で年額21万円が見込まれ、その6割を学術研究補助に、4割を産業振興と社会事業に充当した。昭和8年(1933)以降は博物館と図書館の経営も追加された。斎藤善右衛門翁は大正14年(1925)5月72才の生涯を閉じたが、財団は翁の遺志を堅く受け継いで事業を継続している。

財団の運営には斎藤初代理事長、小川正孝、井上仁吉両総長らの思想を具現するため、当時アメリカのウイスター研究所から本学理学部生物学科に着任したばかりの畑井新喜司教授(1876~1963)が参加した。斎藤報恩会の計画にカーネギー学術財団の定款が参照されているのは、畑井教授によると推測されるが、この点からも斎藤報恩会は、欧米、とりわけ新興著しいアメリカの学術財団をモデルにしていると思われる。

畑井教授は、現職のまま斎藤報恩会の学術研究総務部長を兼務し、初代理事長斎藤翁の意を体して研究補助金の申請を審査し、東北帝国大学に多大の補助金を交付した。

研究補助金の交付について「斎藤報恩会研究補助審査方針」(大正13年〔1924〕)は、以下のように掲げている。

一、
共同的大研究ヲ奨励スルコト
一、
継続研究ノ有望ナルモノヲ完成セシムルコト
一、
新規ノ要求ハ既ニ他ノ方面ニ於テ研究進行中ノモノ及既ニ或研究ノ実績ヲ学術界ニ発  表シタル研究者ノ申込ニ限リ考慮スルコト
一、
普通ノ文庫ノ購入及雑誌ノ欠号購入等ハ之ヲ認メザルコト
一、
報恩会ノ補助ニ依ラザル研究報告ノ出版費ハ補助セザルコト

大正13年当時、自然科学を対象とする特殊研究者(5帝大、及び専門学校の教官)には、毎年15万円を研究奨励費(現在の科学研究費に相当すると思われる。一件当たり最高額3千円、最低額300円)が文部省から交付された。人数は、全国で177名、東北帝国大学は10名であった(『河北新報』大正13年8月23日)。このことからも斎藤報恩会の研究補助金が如何に本格的研究助成であったかが想像できよう。

「斎藤報恩会研究補助審査方針」は、近年本学が進めてきた特定領域横断研究組織(TURNS:Tohoku University Reserch Networks) を予告する思想の源流ではないだろうか。また、畑井教授が提唱された人類生物学(Human biology) もその一例である。人類生物学とは、生物学者だけでなく、人類学、衛生学その他社会科学者の参加も得て、人間生活についての概括的法則を帰納せしめる学問である、と畑井教授は述べている。これは、戦後の新しい研究領域の展開を先取りした先進性を現してはいないであろうか。

財団が援助した継続的研究費の一例として、まず抜山平一教授が受けた補助金「電話ニ於ケル送話強度明確度ニ関スル研究」がある。これは大正12年度に3千円、13年度には5千円、そして同年八木秀次、抜山平一、千葉茂太郎3教授の共同研究「電気を利用する通信法の研究」の大型研究となり、昭和9年度までに合計22万5千円の補助金を受けている。

「又た斎藤報恩会から20万余の補助を受けて過去5ヶ年に顕著なる研究業績を挙げた電気通信法共同研究の永続を可能ならしめるために工学部附属電気通信研究所を設置する予算をも要求してある」(八木教授「其の後の工学部」『工明会誌』 第11号 昭和5年)といわれているように、本学電気通信研究所は、斎藤報恩会研究補助金による研究が契機となり誕生したことになる。

金属材料研究所でも、昭和4~5年に低温研究部門創設のために10万円を、農学研究所は、戦時下でありながら設備費として昭和12~14年度に5万円、18年度に9千円の援助を受けている。

文科系でも斎藤報恩会から援助を受けている。報恩会の寄贈により本学の所蔵となった西欧碩学の個人文庫はヴント文庫をはじめ5文庫、3万5千冊の他チベット仏典579帙がある。その内容は、哲学、美学、法学、心理学、史学等々人文科学全般にわたるもので、附属図書館において一大コレクションを形成している。これらはドイツが経済的混乱期の最中に売立てられたもので、中にはアメリカの著名大学と競合したものもあった。

また、多田等観師(1890~1967)が本学に将来した西蔵仏典は質量ともに充実し世界的に著名であるが、これも報恩会の寄贈によるものである。報恩会は目録編纂事業も援助したため、本学は西蔵学の文献センターとなっている。

幼くして藩校養賢堂に学び、長じては福澤諭吉の著書を耽読して家業に精励した翁は常に報恩を心がけ、郷土の発展、とりわけ地元における学問研究の発展を願っていた。新たに事業を起こす場合は全国の識者に意見を聴くなど、情報収集も万全であったが、井上、小川、畑井3教授らの、学問研究の姿勢を読み取り、全面的に東北帝大への援助を行なった。その大きさは測りしれない程であり、東北大学の今日あるのは、斎藤報恩会すなわち斎藤善右衛門翁の援助によるところが大きいものであることを、改めて銘記しなければならない。(文中敬称略)

小野和夫(東北大学百年史編纂室員)

(参考文献)
1.『斎藤善右衛門翁伝』 斎藤報恩会 昭和3年
2.『財団法人斎藤報恩会要覧』 昭和54年
3.『財団法人斎藤報恩会時報』 第1~213号 大正15~昭和12年
4.『工明会誌』 第11号 東北帝国大学工学部工明会 昭和5年
5.『河北新報』 大正13年8月23日
6.『同心』 第7号  東北大学附属図書館同人 昭和26年

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